キッズ・ジュニアエアロビック指導法 〜ジュニアエアロビック検定を教材とした考察〜

キッズ・ジュニアエアロビック指導法 
〜ジュニアエアロビック検定を教材とした考察〜

序文

 ジュニアエアロビック検定は、個人スキルの到達度を診断する指標となるものです。子どものからだの評価を委ねるわけです。そこには、学業成績の評価と同様、到達度により合否の判定が降されます。子どもによっては、生まれて初めてのからだの評価になることも多分にあります。私の教室では、結果通知書を配る時間は、えもいわれぬ緊張感と二極する感情が交錯する特別な時間になります。笑顔の子にも、半べその子にも、瞬時に次のモチベーションとなる言葉と、具体的なレディネスを形成しうる課題を提供します。


もちろん、合否にかかわる正しい正誤の判断を、自ずから担保することが、子どものからだを評価する、評価を委ねる者の責任義務となります。あいまいな正誤の判断は、子どものやる気や勇気を阻害する。このことを、私は検定導入以降、6年間の経験から学習し、常に肝に銘じています。また、同じく経験と照らし合わせ、教材を研究、検証するなかで、指導の準備と要領を学習しました。

この号を4チャプタに分けて、私が主宰する教室や研究会の指導者より、検定に取組むうえで多種多様な質問を頂戴します。それを系統別に分類し、実際に経験した事象と照合しながら筆をすすめてみたいと思います。同じような疑問や問題に直面している皆様にとって、標となれば幸いです。

1, 指導とは準備なり

教室は生きていて、子どもの発育、発達は、著しく、一刻もとどまることがありません。変化の連続です。その変化をキャッチし、瞬時にレシーブすることが指導の技量です。この指導の瞬発力を有するためにはどのような準備が必要となるのでしょう。
ジュニアエアロビック検定の至適年齢となる、小学1年生より、検定に向けた稽古を始めるには、幼児期に、それに向けた準備教材を提供することが重要です。リトミックを基礎にもつ体操で、様々なリズムあそびを経験することで、適時期にリズムの基礎や、リズムあそびの楽しさが自然に身につきます。そしてそれは、生涯忘れることのないリズムスキルの土台になります。同様に、柔軟性の獲得においても、幼児期のトーレーニングが最も効果的であることは、幼児期におけるバレエの伝統的な稽古からも窺い知れます。
また、ひとつ上の課題動作を予習とすることも、同様に準備といえます。難易度の高い複雑な多軸動作も、動作を解析してみると、下位級にて取得した動作の複合型であることが分かります。これは、何処ができない事由なのかを推し量るうえでも指標となります。
子どもの発育、発達の指標を学習し、経験や個人差に合わせて、予め教材を準備することが肝要となります。また、運動力学の観点から、安定や平衡、エネルギーの移行などを鑑みることも、初歩的な物理学の利用で可能となります。経験と理論がイーコルで結ばれたとき、はじめて正しい指導といえるのです。
勿論、子どもの指導は、大人を対象としたものとは異なります。私たちが子ども時分に経験した事柄から、想像力を働かせ指導に生かす。これも大切な準備といえます。

2, 指導は接触なり

子どものクラスは、家庭や学校での交友関係から一歩踏み出し、他人に触れ、人間関係を結ぶ場所です。集団の中で稽古を通して、こころの触れあい、からだの触れあいから、新しい自己を発見します。人間としての土台作りとなる大切なときに、子どもをあずかる指導者は、豊かな人間教育の場という自覚と、理念を持って、子どもの成長を助長する立場にあります。指導者と子どもたちが信頼の情で結ばれ、教育原理の根本となる愛情を育むために、如何な接触をこころがけていますか。
ジュニアエアロビック指導の現場は、自己と他人のからだの違い、個性が顕著に現れます。歩く、走る、跳ぶなどの基本的な動作にも、身体の特徴、発育の程度、発達の過程といった情報が発信されます。また、それらの変化はとても著しく、こころのありようにも影響を受けます。指導者にとって、瞬時にたくさんの情報をキャッチし、整理し考えることが、接触の準備になります。
子どものからだの言葉は、常に直観的で正直なものです。また、身体の特徴が素直に反映された動きを好みます。検定は課題動作をリズムにあわせて学習するわけですから、往々に、好みを矯正し、正しい動作へと導く指導の連続です。勿論、家電製品を扱うように、マニュアル操作というわけにはいきません。同じ動作の獲得にも千差万別の方法論が必要になります。まずは、個々に素のからだに触れるところから、個性を把握し、その子だけの指導法を見つけるのです。さらに、個性を自覚させることで、自己発見につながり、やがては、自らが課題や苦手動作の克服に取組む動機となります。
子どものクラスでは、他人の発育や発達、技能の熟練過程を目の当たりにします。子どもたちが言葉やからだのふれあいを通じて、自他の違いや共通性を知る。接触教育の根幹をなすところです。2人組或は、複数人での積極的な接触を指導案のなかに加味し、「○○ちゃん柔らかくなったね」「○○君すごい汗」といった、からだの自発的コミュニケーションが教育の第一義です。
また、集団として成長、成熟の段階に達すると、仲間の理解がすすみ、その日の体調やこころのありようにも注視できるようになります。仲間のからだやこころを思いやり、同じ気持ちになってみる。社会性の萌芽とは、接触教育の熟成した段階のことなのです。そこには、淡いながらも職業観や、子どもながらも将来に向けた志が生まれてきます。「ダンスの先生になりたい」「幼稚園の先生になりたい」。問いかけに対する、子どもたちの応えは、私が指導者として志してきた、もっとも大切な願いであり、誇りなるものです。
ジュニアエアロビック指導の教材は、表層的には技術指導の体系をまとめたものです。しかし、技術指導のみでは、子どもをひきつける指導のエネルギーに満ちた接触は生まれません。子どもと真摯に向き合い、教材を吟味、研究し、教育的な要素を導き実践してこそ、子どもの指導といえるのです。
教材をより生かすこと、そして、全身を使って、こころから真剣な態度をみせること。それが、指導者の魅力となり、子どもの笑顔にうつるのです。

3, 体験から生まれる模倣

子どもは、生活環境、自然環境の中で、模倣しながら育ちます。私が教室を主宰し、21年を数えます。様々な環境の変化により、子どもの模倣の対象や形態もまた、時代に即応し変化してきました。しかし、いつの時代でも子どもの模倣の欲求は活発で、飽くことがありません。私たち指導者は、多くの模倣体験の場を提供し、生きた言葉をもって、繰り返し考え、想像しうる教材を豊かな思考力を持って実践する必要があります。ジュニアエアロビック検定の指導も、模倣からはじまります。準備、接触を通じ、どのように模倣へとつなげる工夫をしていますか。
幼児期を迎える子どもは、母親のまね、父親のまねから、ごっこあそびへと展開していきます。やがて、ごっこあそびの集団が拡がり、ルールや規範めいたものが発生します。ここで、保育や幼児教育の現場へと踏み入れる準備体験をするわけです。
ジュニアエアロビック検定導入の至適年齢に達する以前より、あそびやリトミック体操を教材に、からだの動きやリズムの模倣体験を、豊富に積んでおきたいものです。そのためには、子どもが自発的に興味を持ち取組めるような、舞台装置の準備が必要です。情操に響く音楽、子どもの呼吸に合わせた動き、ユニークで変化にとんだ遊具など。指導者の原体験と想像力に基礎を持つ、技量が問われます。同時に、指導者は子どもの憧れの対象となるような、立ち居振る舞いと、保育の言葉をもって接触することが大切です。
私が主宰する教室では、年数回の舞台を経験します。そこで、ジュニアエアロビック検定の取得級別に、検定動作を披露します。ジュニア1級を取得し、技能検定1級にチャレンジする中学生の子どもは、後輩たちの憧れの対象となり、羨望のまなざしが向けられています。「○○ちゃんの様になりたい」という欲求は、模倣のレディネスとしてたいへん強い動機となるものです。学年別のクラスを複数展開している教室にとって、先輩のパフォーマンスに触れる機会、体験が模倣のきっかけとなり、新たな活動のエネルギーとなるのです。
クラスが成熟し、お互いの理解が進んでくると、こころのリハーサル効果(ミラーニューロム効果)が顕著に現れます。仲間の体験をあたまのなかで追体験し、そのときの喜怒哀楽までもを共有します。「○○ちゃんが努力して柔軟動作が出来るようになった」と、努力の様子を想像し、できた喜びをこころの模倣により経験するのです。私もやればできるという意志は、仲間の追体験により強固になるのです。これが、技術を向上させ活動を発展させる原動力、クラスのちからと呼んでいるものです。
近年、教育の現場では、競いあい、優越を評価することに臆する風潮にあるようですが、私の教室では時に、検定の素点を、子どもたちがお互いに評価し合うこと取り入れています。「○○ちゃんのここが良かったよ」「ここで膝が曲がっていたよ」と、お互いの良いところ、間違ったところを指摘しながら、自分の動きを考えます。良いところを模倣し、間違ったところを一緒になって検証します。また評価や、進級を競い合うことで、課題を見つけ、方法を考える習慣を養います。相手のことを考えたアドヴァイスができるようになれば、我が意を得たりです。

4, 創る喜び、完成の喜び

 ジュニアエアロビック検定は、純粋にスキル獲得の喜び、昇級する喜びがあります。それは、熱心に稽古に取組む動機として、核心的なものでしょう。しかし、順調に昇級をかさねられるケースは稀であり、スキルのプラトー期(停滞期)を経験しながら、工夫と地道な稽古の繰り返しにせまられます。指導者は、この期間にこそ新しい喜びの種を提供し、次なる成長へ向けてのスムーズな移行を考える必要があります。如何なスキルも成長が一段落し、成熟に向かう過程においては、プラトー期を経験します。皆様は、この期間を乗り越える術、工夫をどのように実践していますか。
子どもは、そばにあるもの全てがおもちゃになります。紙一枚から、書く、描く、折る、破るなど、想像力豊かに、新しいものへと発展させていきます。何かを生みだすことに、夢中になり、完成の喜びを知る、豊かな時間となります。私の主宰する教室では、ジュニアエアロビック検定において獲得したスキルを利用し、ダンス作品を創る喜びへと昇華させています。ダンス作品の振付けに検定動作を取り入れることで、子どもたちは昇級の喜びとは違った、あたかも、おもちゃ箱から積木を取り出し、形作っていくような創作の喜びを感受できます。「ここの振りはどうしようか」と、私の問いかけに反応する子どもたちの目は、いきいきと光輝いています。
指導の目的が一元化すると、兎角、ゆとりが阻害されます。あそびがなくなると窮屈になり、クラスの雰囲気にも影響します。昇級に向けて一心に取組む期間、ダンス作品を創り完成の喜びを分かち合う期間、次の級へ向けての事前準備をする期間といった様に、年間指導計画にめりはりと単元を設け、飽くことなく、クラスを運営する工夫が肝要になります。「先生、いつから検定練習はじめるの」と、子どもたちから自発的に意欲が芽生えるような働きかけが、指導の技量です。
クラスの子どもたちが、一丸となって取り組みに参加するようになると、不思議とシンクロニシティ効果(共時性)が現れます。偶然、同じ日に、サポート8カウントができるようになった。違うクラスにも、同時期に成功体験が伝搬した。成熟したクラスにおいては、しばしば同じような現象がみうけられます。徹底した指導の準備、愛情を持っての接触、豊かな模倣体験、完成する喜び。経験、技量を総動員し、保育の言葉をもって指導を続けた副産物として、思わぬプレゼントを頂戴する授宝のときです。
ジュニアエアロビック検定指導のみならず、子どもの運動やダンス指導は、いままさに、開花期を迎えています。学校教育では、単元としてあつかわれ、公私にわたり、スポーツ施設や教室が、たいへん充実してきました。子どもの運動習慣づくりに寄与し、情操豊かに、生きる力を育む。この責務を担う、私たち指導者に課された役割は少なくありません。時代を超えていきる、教育指導の原点にたちかえり、技量を磨いていきたいと考えています。

書責:
キッズガーデン・フィットネススタジオ主宰 梶原和歌子




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